レストランやコンビニのメニューでよく見かける「シーザーサラダ」や「シーザードレッシング」。クリーミーでコクのある味わいが人気の定番料理だが、その名前に含まれる「シーザー」とは一体何を意味しているのだろうか。
多くの人が「古代ローマのカエサル(Caesar)」を連想するかもしれないが、実はこの料理名には意外な由来がある。本記事では、「シーザー」という言葉の意味や背景、シーザーサラダの誕生秘話までをわかりやすく解説する。
シーザーサラダの「シーザー」は誰の名前?
「シーザーサラダ」という名前を聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、古代ローマの独裁者ユリウス・カエサル(Julius Caesar)だろう。しかし、実際にはこの料理名に登場する「シーザー」は、まったく別の人物に由来している。
シーザーサラダの「シーザー」は、アメリカに渡ったイタリア系の料理人、シーザー・カルディーニ(Caesar Cardini)の名前である。1920年代、カルディーニはアメリカとメキシコの国境に近いメキシコの都市ティフアナでレストランを経営していた。禁酒法の影響で多くのアメリカ人観光客がメキシコに訪れていた時代、彼のレストランは人気を博していた。
1924年のアメリカ独立記念日、レストランが混雑し材料が不足するなか、手元にあった食材を組み合わせて即興で作られたのが「シーザーサラダ」のはじまりとされている。この料理はその独特な味わいとスタイルからたちまち評判となり、後に彼の名前を冠した「シーザーサラダ」として広まった。
シーザー・カルディーニとは何者か?
シーザー・カルディーニ(Caesar Cardini)は、1896年にイタリアで生まれ、後にアメリカに渡った料理人である。彼は第一次世界大戦後にアメリカ市民権を取得し、ロサンゼルスやサンディエゴなどでレストランを経営した経験を持つ。その後、禁酒法の影響を受けて、酒類提供が可能なメキシコのティフアナにレストランを開店した。
カルディーニの料理スタイルは、イタリア料理をベースにしながらも、アメリカやメキシコの食文化を柔軟に取り入れたもので、多国籍な客層に支持された。シーザーサラダが誕生したのは、1924年7月4日、アメリカの独立記念日でレストランが非常に混雑していた日だったと伝えられている。食材が限られる中で、レタス、クルトン、パルメザンチーズ、オリーブオイル、レモン汁、生卵などを組み合わせた即興の一皿が、客に好評を博した。
カルディーニはその後もレストラン業を続けながら、自身の名前を冠したドレッシングやレシピの販売も行い、シーザーサラダはアメリカを中心に世界中に広がっていった。現在でも、彼の娘が創設した「Cardini’s」というブランドがシーザードレッシングを製造・販売しており、その名は料理界に深く刻まれている。
シーザードレッシングの特徴と材料
シーザーサラダの魅力を決定づけているのが、独特な風味を持つシーザードレッシングである。このドレッシングは、一般的なフレンチドレッシングや和風ドレッシングとは異なり、濃厚でコクのある味わいが特徴だ。
基本的な材料には、オリーブオイル、卵黄(またはマヨネーズ)、レモン汁、ディジョンマスタード、ウスターソース、にんにく、すりおろしたパルメザンチーズが使われる。さらに、独特の風味を引き立てる要素として、アンチョビペーストが加えられることも多い。このアンチョビが、シーザードレッシングの奥深さと旨味の要となっている。
ドレッシングは、これらの材料を乳化させることでクリーミーな質感に仕上がる。現代では市販のボトル入りドレッシングも多数出回っており、家庭でも手軽にシーザーサラダを楽しむことができる。シーザードレッシングは、サラダ以外にもグリルチキンやサンドイッチのソースとして応用されることもあり、その汎用性も人気の理由のひとつである。
「カエサル(Caesar)」との混同が生まれた理由
「シーザーサラダ」や「シーザードレッシング」と聞くと、多くの人が古代ローマの偉人ユリウス・カエサル(Julius Caesar)を連想する。これは、料理の名称に使われている「Caesar(シーザー)」が、まさに彼の英語表記と同じ綴りであるためだ。
実際には、シーザーサラダの「シーザー」は料理人の名前に由来するものであり、ローマ皇帝とは無関係である。しかし、「カエサル」という名前の歴史的知名度の高さから、料理との関連を誤って結びつける人が少なくない。また、料理そのものが豪華な見た目と濃厚な味わいを持つことから、「皇帝的な贅沢さ」を象徴していると解釈されることもある。
このような混同は、英語における固有名詞の重なりや、文化的背景への知識の違いによって自然に起こるものであり、完全に誤解とは言い切れない一面もある。しかしながら、シーザーサラダの本来の由来を正しく理解することは、料理の背景をより深く味わううえでも重要だといえる。
まとめ:シーザーとは料理人の名前だった
「シーザーサラダ」や「シーザードレッシング」に使われている「シーザー」という名前は、古代ローマの英雄ユリウス・カエサルではなく、20世紀初頭に活躍した料理人シーザー・カルディーニに由来するものである。彼がレストランの即興料理として生み出した一皿は、その後世界中に広まり、定番サラダとして定着した。
ドレッシングに使われる独特な材料や味わいも、この料理の人気を支えている要素のひとつであり、名前の響きとあいまって、料理としての魅力を高めている。しかしながら、その名の由来を正しく知ることで、単なる名前以上の物語が見えてくる。
「シーザー」とは、料理人の名を冠した創造の証であり、文化と工夫の結晶である。この一皿の背後にある歴史と人の物語を知れば、シーザーサラダはより深い味わいをもって食卓にのぼることだろう。