へその緒で栄養を受け取れるのはなぜ?成人後のへその働きも解説

赤ちゃんとへその仕組み図

「お腹の赤ちゃんはへその緒から栄養をもらっている」と聞いたことがある方は多いかもしれません。しかし、なぜへその緒を通して栄養が届くのか、その仕組みを詳しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。さらに、「大人になってもへそから栄養を取ることはできるのか?」といった疑問を抱く人もいるかもしれません。

この記事では、胎児がへその緒から栄養を受け取る仕組みと、出生後のへその役割について医学的な観点から解説します。

目次

胎児がへその緒から栄養を取れる仕組みとは?

胎児は自力で食事をしたり呼吸をしたりすることができません。そのため、母体から栄養や酸素を受け取り、老廃物を排出する仕組みが必要です。これを担っているのが「胎盤」と「臍帯(へその緒)」です。へその緒は、胎盤と胎児をつなぐ管状の構造であり、その中を通る血管を通じて物質のやりとりが行われます。

胎盤と臍帯の役割

胎盤は、母体の子宮内壁に形成される臓器であり、母体の血液から胎児に必要な栄養素や酸素を供給し、逆に胎児の老廃物を母体に戻す働きをします。臍帯は胎児のへそと胎盤を結ぶ役割を担っており、主に1本の臍帯静脈と2本の臍帯動脈から構成されます。

栄養と酸素の運搬プロセス

母体の血液は胎盤に集まり、そこから栄養素や酸素が胎児の血液中に拡散されます。臍帯静脈は、胎盤から胎児の体内へと酸素や栄養素を運ぶ経路であり、逆に臍帯動脈は胎児の老廃物や二酸化炭素を胎盤に送り返す役割を果たします。このようにして、胎児はへその緒を通じて生命維持に必要な物質を受け取っているのです。

出産後、へその緒はどうなるのか

胎児の命綱として機能していたへその緒は、出産と同時にその役割を終えます。赤ちゃんが母体の外で自力で呼吸を始めると、もはや胎盤を通じた酸素供給は不要となり、臍帯も切断されます。

通常、医師または助産師が臍帯をクランプ(止血)した後、へその緒を切り離します。このとき赤ちゃん側に残された短い臍帯の断端は数日から1週間ほどで自然に乾燥・脱落し、「へそ」と呼ばれるくぼみになります。

へその緒の跡、すなわち「へそ」は、あくまで胎児期に使われていた血管の名残であり、出生後においては生理的な役割を持ちません。体内との直接的な通路は閉じられており、臓器などともつながっていないため、特別な機能を果たしているわけではないのです。

成人のへそに栄養吸収機能はあるのか?

結論から言えば、成人のへそに栄養を吸収する機能は一切ありません。へそは胎児期に使われていた臍帯の名残にすぎず、出生後は皮膚の一部として存在しているだけです。内部に栄養吸収のための血管や管状構造が残っているわけではなく、体内と直結するような経路もありません。

へその皮膚自体は他の体表と同様で、外部から塗布された物質がわずかに皮膚を通じて吸収される可能性はあるものの、それは「栄養摂取」とは呼べるレベルではありません。栄養素は消化管を通じて摂取・吸収され、血流に乗って全身に運ばれるため、へそを介して体内に栄養を取り入れることは生理的に不可能です。

一部では、「へそにオイルを塗ると体調が良くなる」などとされる民間療法も存在しますが、これらの効果は科学的に実証されたものではなく、多くの場合はプラセボ(偽薬効果)によるものと考えられています。

なぜ「へそから栄養が取れる」と誤解されるのか

「へそから栄養が吸収できる」という誤解は、主に民間療法や俗説、インターネット上の不確かな情報から広まったものです。とくに、「へそにオイルを塗ると体の不調が改善する」「栄養が体内に浸透する」といった主張が、真実と誤認されることがあります。

こうした誤解が生まれる要因のひとつに、胎児期のへその緒の役割があります。胎児が実際にへその緒を通じて栄養を受け取っていた事実が、「へそは今でも栄養を取り込める場所」という思い込みにつながってしまうのです。

また、アーユルヴェーダなどの伝統医療では、へそを体の中心的なエネルギーポイントとみなす考え方があります。これが現代の健康志向や自然療法と結びつき、科学的根拠のないまま一般に広まるケースも見受けられます。

しかし、現代医学の観点からは、へそに塗布した成分が体内に有意義な量で吸収されることはないとされています。皮膚はバリア機能を持っており、経皮吸収される物質には限界があり、栄養素の摂取経路としては適していません。

まとめ:へその緒は胎児期限定の生命線

へその緒は、胎児が母体から栄養や酸素を受け取り、成長するために不可欠な生命線です。胎盤と胎児を結ぶこの臍帯は、出産とともにその役目を終え、切断された後は「へそ」として体表に痕跡を残します。

しかし、出生後のへそには栄養を吸収する機能は存在せず、生理的な役割もありません。成人のへそは、かつての臍帯の名残にすぎず、栄養摂取の経路ではないというのが医学的な結論です。

「へそから栄養が取れる」といった説や療法は科学的根拠に乏しく、誤った理解に基づいたものであることがほとんどです。正しい知識を持ち、根拠に基づいた健康管理を心がけることが大切です。

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