地球は常に自転しており、赤道上では時速約1,670kmという驚くべき速さで回っています。しかし、私たちは日常生活の中でその回転を意識することはありません。ビルの上に立っていても、地面に寝転んでいても、身体が吹き飛ばされるような感覚はまったくないのです。
この現象に対して、「そんなに速く回っているのに、なぜ私たちは地球から振り落とされないのか?」という疑問を抱くのは自然なことです。この記事では、その問いに対し、物理学や地球科学の視点から順を追ってわかりやすく解説していきます。
地球の自転速度はどれくらいか?
地球は1日に1回、自らの軸を中心に回転している。これを「自転」と呼び、24時間かけて360度回転していることになる。この回転速度を具体的な数値で表すと、赤道付近では時速約1,670kmにも達する。これはジェット機の速度をはるかに超える速さである。
ただし、地球の表面すべてが同じ速度で動いているわけではない。赤道を基準にすると、緯度が高くなるにつれて回転に伴う移動距離は短くなり、結果として速度も遅くなる。たとえば、東京(北緯約35度)の地表速度はおよそ時速1,400km程度となる。
なぜ地上の私たちは自転の影響を感じないのか?
地球が高速で自転しているにもかかわらず、私たちがその回転を体感できないのは、「慣性の法則」によって説明される。慣性の法則とは、外から力が加わらない限り、運動している物体はそのままの状態を保ち続けるというニュートン力学の基本原則である。
私たちは地球の地面と共に同じ速度で動いており、周囲の空気や建物などもすべて同じ自転運動をしている。そのため、相対的にはすべての物体が静止しているように感じられ、自転の“風”や“揺れ”を感じることがない。これは、飛行機の中で一定速度で飛行中に立ち上がったり歩いたりしても、風を感じないのと同じ原理である。
また、地球の自転は一定の速度で行われているため、急激な加速や減速といった変化がない。人間の感覚は速度そのものよりも加速度の変化に敏感であるため、一定速度の自転では違和感を感じにくい。
自転によって本当に何も影響はないのか?
地球の自転は私たちの感覚では捉えにくいが、実際にはさまざまな影響を及ぼしている。その代表的な例が「遠心力」と「コリオリの力」である。
まず遠心力について。地球が回転していることで、回転軸から外側へと向かう力――つまり遠心力が生じている。これは回転しているコーヒーカップの中の液体が外に押し出されるような力である。地球の場合、この遠心力は赤道付近で最も大きく、極地ではほとんどゼロに近い。実際に、赤道上では重力が約0.3%ほど小さくなるという差が観測されている。しかしこの差は人間の感覚で実感できるほど大きくはなく、日常生活に影響を及ぼすものではない。
次に、コリオリの力である。これは、回転する座標系(つまり地球上)で観測されたときに、移動する物体の進行方向が曲がるように見える見かけの力のことである。コリオリの力は、気象や海流に大きな影響を及ぼし、たとえば北半球では台風が反時計回りに回転する原因にもなっている。
さらに、GPSや衛星通信といった高精度のシステムでは、地球の自転による時間や位置のずれを補正する必要がある。これらは私たちの生活に直接関わる重要な技術であり、自転の影響を無視できない例である。
地球の重力が自転より強いから吹き飛ばされない
地球が自転しているにもかかわらず、私たちが地面から振り落とされない最大の理由は、「重力」が遠心力よりもはるかに強いからである。
重力とは、地球がすべての物体を地球の中心に向かって引っ張る力である。この力は地球の質量によって生じ、地表にいる限り私たちをしっかりと引き留めている。一方、遠心力は自転によって外側に働く見かけの力であり、物体を外方向へ押し出そうとする。
赤道上での重力の大きさは約9.78m/s²、これに対して遠心力による“押し出し”の加速度は約0.03m/s²程度にすぎない。この差は300倍以上あり、遠心力が重力を上回ることはない。したがって、地球の自転によって吹き飛ばされることは物理的にあり得ない。
仮に地球の自転速度が極端に速くなった場合──たとえば、1日が1時間で終わるほど高速に回転するようになれば、遠心力が重力と同等になる地点が現れ、地表の物体が浮き上がる可能性が出てくる。しかし現実の地球では、そのような速度には到底達していない。
つまり、私たちが地面にとどまっていられるのは、地球の重力が圧倒的に強力であり、自転によって生じる遠心力を完全に抑え込んでいるからにほかならない。
まとめ:地球に「しがみついている」必要はない理由
地球は毎日、高速で自転し続けているにもかかわらず、私たちがその影響で吹き飛ばされたり、揺れを感じたりすることはない。これは、私たち自身も地球とともに等速で移動しており、慣性の法則によって運動を感じない状態にあるからである。
さらに、地球の重力は自転によって生じる遠心力よりもはるかに強力であり、私たちをしっかりと地面に引き留めている。赤道でのわずかな重力の減少や、気象に影響を及ぼすコリオリの力といった現象はあるものの、それらが人間の身体を物理的に脅かすことはない。
地球の自転は、見えないながらも私たちの生活や自然現象、さらには高度な技術にも影響を及ぼしている。しかし、その運動は私たちにとって「日常の一部」となっており、安心して生活を送ることができる。つまり、私たちは地球に「しがみついている」必要などなく、むしろその大きな安定の上に自然に存在しているのである。