「海抜(かいばつ)」という言葉は、天気予報や災害情報、地理の授業などで耳にすることが多い用語です。しかし、具体的に何を指しているのか、また「標高」とどう違うのかまで正確に理解している人はそれほど多くありません。特に近年は、地震や津波といった自然災害が頻発する中で、自分が住んでいる地域の海抜がどの程度かを知っておくことは、防災の観点からも非常に重要です。
この記事では、「海抜」とは何かという基本的な定義から、よく似た「標高」との違い、災害リスクとの関係、さらには実際に自分の住む地域の海抜を知る方法まで、わかりやすく解説していきます。
海抜とは何か?
海抜とは、「ある地点が海面からどれだけの高さにあるか」を示す指標です。具体的には、平均海面(へいきんかいめん)と呼ばれる、海の高さの基準値を0メートルとして、そこからの高さをメートル単位で表します。たとえば、ある場所の海抜が10メートルであれば、その地点は平均海面より10メートル高い位置にあるということになります。
この「平均海面」とは、短期的な波や潮の干満といった一時的な変動を取り除いた、長期間の観測に基づく平均的な海面の高さです。日本では、東京湾の芝浦にある「日本水準原点」がこの基準として用いられています。
海抜は、地形や建物、道路などの高さを示すうえで重要な情報であり、特に地図や測量、土木工事、防災計画などの分野で頻繁に活用されています。
標高との違いとは?
海抜と混同されやすい言葉に「標高(ひょうこう)」があります。どちらも「高さ」を示す指標ですが、それぞれ基準とする高さが異なります。
海抜は、前述のとおり「平均海面(日本では東京湾の平均海面)」を基準にしています。一方、標高も基本的には同じく平均海面を基準としていますが、地理学的な文脈や国際的な測量基準においては、より正確に「地球上のある基準面からの高さ」として使われることが多くなっています。
実際の使用上、海抜と標高はほぼ同義で扱われるケースが多くあります。特に日本国内の地図や観光案内などでは、「標高○○メートル」や「海抜○○メートル」が同じ意味合いで使われていることが少なくありません。
ただし、厳密に区別するなら、海抜はより日常生活や災害対策向けに使われ、標高は地理や登山、航空などの専門的な分野で多用されるという違いがあります。また、「標高」は山の高さを語る際によく使われる一方、「海抜」は津波や洪水の危険性を評価する文脈で用いられることが多い点も特徴です。
海抜が関わる災害リスク
海抜は、自然災害と深く関係する重要な情報です。特に津波や高潮といった水害では、海抜の高さによって被害の程度が大きく左右されます。
たとえば、大規模な地震が発生した際、津波が発生すると海岸沿いの地域に急速に押し寄せる危険があります。このとき、海抜が低い地域では津波がそのまま内陸に流れ込み、建物や人命に甚大な被害を及ぼす可能性があります。逆に、海抜が高い場所であれば、その影響を受けにくくなります。
また、台風や豪雨時に発生する高潮でも同様です。海面が通常より大きく上昇し、堤防を越えて浸水するリスクが高まるため、特に海抜が低い平野部では大規模な水害に繋がる恐れがあります。
災害対策においては、自宅や職場、学校などの海抜を知り、どの程度の浸水リスクがあるのかを把握しておくことが重要です。自治体によってはハザードマップを公開しており、津波や洪水の浸水想定区域と海抜を照らし合わせることで、より現実的な避難計画を立てることができます。
地域の海抜を知る方法
自分が住んでいる地域や、通勤・通学する場所の海抜を把握することは、災害時の避難判断に直結する重要な備えの一つです。海抜を調べる方法はいくつかあり、手軽に利用できるツールも多く存在します。
まず代表的なのが、国土地理院が提供するウェブサービスです。地図上で任意の地点をクリックすると、標高や海抜の情報を即座に確認できます。操作も簡単で、パソコンやスマートフォンから無料で利用できるため、初めての方にもおすすめです。
次に、各自治体が公開しているハザードマップも有用です。これらの地図には、津波や洪水などの浸水想定区域とともに、海抜の目安が色分けや数値で示されていることがあります。自治体の防災サイトや広報紙から入手できる場合が多いです。
また、Google Earthや一部の地図アプリでも、場所によっては海抜情報が表示される機能があります。あくまで目安の数値ではありますが、外出先などで簡易的に確認したい場合には便利です。
これらのツールを活用することで、平時から自分の周囲の地形情報を把握し、災害時に迅速な避難行動を取るための判断材料とすることができます。
まとめ
海抜とは、ある地点が平均海面からどれほどの高さにあるかを示す指標であり、地理情報や災害対策において重要な役割を果たします。標高とほぼ同義で使われることが多いものの、用途や文脈によって使い分けがなされることもあります。
特に津波や高潮といった水害においては、海抜の高さが被害の程度を左右する重要な要素となります。海抜が低い地域では浸水のリスクが高まるため、自分の住んでいる場所や通勤・通学先の海抜をあらかじめ把握しておくことが、防災上きわめて有効です。
国土地理院の地図や各自治体のハザードマップを活用することで、正確な海抜情報を簡単に知ることができます。日頃から海抜を意識することで、いざという時の避難行動に迷わず対応することができ、安全な暮らしにつながります。