街中や商業施設で、ほとんど客を見かけないのに営業を続けている店舗を目にすることがあります。一見すると赤字経営に見える状況にもかかわらず、なぜ閉店せずに存続できるのか。その背景には、通常の「売上=利益」という図式では説明できない仕組みや戦略が隠されています。
本記事では、客がいなくても営業を続けられる店舗の理由を多角的に解説していきます。
売上以外の収益源を持つ店舗の仕組み
客数が少なくても営業を続けられる店舗の多くは、売上以外の収益源を持っています。たとえば、店舗そのものが企業の広告塔としての役割を担っている場合、直接の販売利益よりも宣伝効果が重視されます。また、メーカー直営店では販売利益ではなく、ブランドイメージ向上や市場への露出が主な目的となることもあります。
さらに、店舗がオンライン販売や他事業の拠点と連動しているケースも少なくありません。実店舗の売上が小さくても、ECサイトや別のチャネルで収益を確保していれば、店舗の存在意義は十分に維持されるのです。
補助金や助成金による経営維持の可能性
一部の店舗は、国や自治体からの補助金・助成金によって経営を維持しています。特に新しいビジネスモデルや地域活性化を目的とした店舗の場合、実証実験や雇用維持の観点から公的支援が行われることがあります。
また、商業施設やデベロッパー側が、空き店舗を減らすために家賃補助を行うケースも存在します。表面的には採算が取れていないように見えても、これらの支援によって運営コストを抑えることで営業継続が可能となるのです。
実験店舗・ショールームとしての役割
客が少ない店舗であっても、実験店舗やショールームとして機能している場合があります。ここでは商品の陳列方法、販売促進の手法、最新の無人レジや決済システムなどがテストされ、データが収集されます。売上は二次的な要素であり、むしろ将来の事業展開に向けた検証の場としての価値が高いのです。
特に大手メーカーやIT企業は、新技術の導入効果を実地で検証するために店舗を維持します。その結果、得られた知見を他の店舗や事業に展開することで、長期的な利益につなげているのです。
データ収集やマーケティング目的の営業
表向きには客が少ない店舗でも、データ収集やマーケティングを主目的として営業を続けるケースがあります。来店者数や購買動向だけでなく、通行量、年齢層、時間帯ごとの利用傾向といった情報は、今後の出店戦略や商品開発に欠かせない重要な資産となります。
また、店舗が実際に稼働していることで、企業は「この地域でのブランド露出」を確保できます。広告宣伝の一環としての意味合いが強ければ、短期的な売上よりも長期的な顧客獲得や知名度向上を重視するため、店舗は継続的に運営されるのです。
人件費削減によるコスト構造の特殊性
無人店舗や省人化された店舗では、人件費の大幅削減によって運営コストが抑えられています。従来型の店舗に比べて人件費がほとんどかからないため、売上が少なくても採算を維持しやすいのです。
さらに、IoT機器や自動化システムによって在庫管理や清掃、補充といった業務が効率化されており、必要最低限のスタッフだけで店舗を運営できます。このように、低コスト体制が整っていれば、来客数が少なくても店舗の存続は可能になります。
広告塔・ブランド戦略としての存在意義
一見すると閑散とした店舗であっても、広告塔やブランド戦略の一環として重要な役割を担っている場合があります。人通りの多い立地に店舗を構えることで、商品を購入しなくてもブランド名やロゴが目に入り、認知度向上につながります。
また、高級ブランドや専門性の高いメーカーでは「売る場」ではなく「体験を提供する場」としての意味合いが強いケースもあります。来店者数よりも、ブランドの存在感や信頼感を醸成することが目的であり、そのために赤字覚悟でも店舗を維持することがあるのです。
実際に「無人でも続く」店舗事例
現実には、客が少なくても営業を続けている店舗はいくつも存在します。たとえば、無人コンビニや無人書店は、購入者が限られていても運営が続けられています。これらは最新の自動決済システムや監視カメラを活用し、運営コストを最小限に抑えているためです。
また、観光地や地方の過疎地域では、地域振興や実証実験の目的で設置された無人店舗が見られます。売上はわずかでも、地域住民の生活インフラ維持や新しいビジネスモデルのテストとして機能しているのです。
まとめ:客がいなくても成立する店舗の裏側
客がいないのに営業を続けられる店舗には、売上以外の収益源、補助金や助成金、実験店舗としての役割、データ収集、低コスト運営、広告塔としての価値といった多様な理由があります。表面的には閑散としていても、企業戦略や地域政策の一環として十分な意義を持っているのです。
こうした仕組みを理解すると、「なぜこの店は続いているのか」という疑問が、ビジネスや社会の仕組みを読み解くヒントへとつながっていきます。